バスの乗務員に課せられた最大の義務は
「乗客を安全に目的地まで送り届けること」
です。
その上で、「予定されている時刻通りに走ること」
が要求されます。
接客態度などは、それらを守った上でのことです。
バス停の直前に駐車している車がある場合や、
発車してすぐに車線変更しなければならないとき、
乗務員の皆様は、安全のために右側の車線に車が来ていないか確認し、
隣の車線の車が途切れたのを確認し次第、発車するでしょう。
乗務員の方は、発車するときは右側を注視しているのですから、
入口を見ていなくても、仕方がないのです。
「安全を確保すること」が何よりも優先するのですから。
しかし、乗客にしてみれば、目の前にバスが止まっているのに
そのまま発車されてしまったのでは、
「乗せてくれなかった」と文句の一つも言いたくなるものです。
そういう場合は、ドアを叩くなどして、
「乗せて欲しい」という意思表示をするなどの工夫が必要だと思います。
そこまですれば、運転士さんも気付くでしょう。
某HPに掲載されている有名な話があります。
このような事例によるクレームが営業所に入った結果、
各乗務員に「発車前に乗ろうとしている乗客がいないか確認しろ」
という旨の指示が出されたそうです。
やる気に満ちた若く真面目で接客態度も良かった乗務員さんは、
素直にそれに従ったそうです。
しっかりと左側を確認してから発車するようにしたそうです。
その結果、横断禁止の道路を道路の反対側から横断してきて
バスの直前を横切ろうとした夫人を轢いてしまい、
業務上過失致死の現行犯で逮捕されてしまったそうです。
右側に走り出そうというときに、左側を見ていたのですから、
前方不注意ということで、不可抗力や情状酌量の余地はないでしょう。
しかし、一番悪いのは、その乗務員さんではなく、
非常識な指示を出した東京都交通局の担当者だと思えてなりません。
どこにもクレームを入れたり苦情ばかりを言うタイプの人がいるものです。
中には、
「車椅子の乗客が5人ほど待っていらした際、乗りきれない乗客に
乗せきれないので次のバスを利用して欲しいという説明をした」
という状況であっても
「車椅子だからと乗せてくれなかった」とクレームを入れられた。
あるいは、
「車椅子の乗客を乗せた際、固定しましょうかと確認したところ、
他の方に迷惑になるので、このままで良いとの返事だったので、
そのままにして発車した」という状況においても、
「車椅子の固定装置があるのに使用してくれなかった」
とクレームを入れられた。
などなど、あまりに非常識なクレームも多いものです。
そういった多数のクレームを、全て鵜呑みにするのではなく、
しっかりと事実確認をし、
「乗客を安全に目的地まで送り届けること」
その上で「少しでも予定されている時刻通りに走ること」
という立場から、その乗務員の態度が正しいか判断し、
クレームに対して事情説明を行うという態度を、
東京都交通局に持って欲しいものだと思います。
今回のクレームも、そういう意味で、あまりに不自然なのです。
ごく一般のご夫人であれば、
「車を特定するにはナンバープレート(=登録番号)を見れば良い」
ということは一般に知られていますが、
そのナンバープレートよりも小さく、窓ガラスの内側に下がっている局番
などというのは、視野に入っても気にとめないものです。
人間は、視野に入っているもの全てを認識するように出来ていませんからね。
にも関わらず、ここまで局番に拘っているのは、あまりに不自然なのです。
これらを考慮した上で、このMの乗務員さんの行動を読んでいますと、
既に10分程度は遅れているという状況では、
「乗客を安全に目的地まで送り届けること」を厳守した上で、
「少しでも予定されている時刻通りに走ること」に専念すべきでしょうし、
事実そうされていたように読み取れます。
「そのお客さんが納得してくれるまで、発車せずに陳謝と説明を繰り返す」
というのでは、他のお客様への迷惑になりますから、
乗務員として適切な態度ではありませんね。
ましてや、
「運転時間を少しでも回復させるため運転しながら、
そのお客さんの方を向いて説明と陳謝をし続ける」
というのは不可能ですよね。
何よりも「乗客を安全に目的地まで送り届けること」を厳守した上で、
「少しでも予定されている時刻通りに走ること」を優先するのです。
ましてや、バス会社によっては「運転中は乗務員に話しかけないでください」
と表示していますし、そういう条例を施行している自治体もあります。
運転中の乗務員に対して
「だれいったいなぜ黙っているの」と延々と話し掛ける乗客の行動の方が、
「安全確保」という観点において非常識であるとさえ思えます。
そう考えると、「わかりました、事実を営業所に確認して連絡します」
という返事は、適切なものに思えます。
乗務員の行動に対して、いちいち文句を言い合うのが好きな
クレーマーと呼ばれる人種は、どこにでもいるものです。
しかし、そういう意見を鵜呑みにせず、
「乗客を安全に目的地まで送り届けること」を厳守した上で、
「少しでも予定されている時刻通りに走ること」が、
何よりも優先するのだということを、忘れてはならないと思います。